「鏡2」<LD>(タルコフスキー14)

タルコフスキーにとって、母と妻は別離の対象である。空間に浮遊する男と女は性愛の一瞬。少年はひとり、過去の時間にピンでさし止められた影絵のように。そしてそれらのなかにめぐっているのは、火と水。それこそロシアの原型なのだろう、きっと。

タルコフスキーにとってのリアルな家庭とは何だったのだろう。夫人ラリッサが87年、インタビューに答えている。「彼はソビエトで17年間仕事がありませんでした。17ヶ月じゃありませんよ。その間、私がずっと家計をささえてきたのです。多くを語りたくありません・・・その日を生きていくことさえ難しかったのです。」

その後出国したタルコフスキーを待っていたのは、健康保険なしで受ける巨額の癌治療費だった。詩人の父もさしたる収入が無く、2代にわたってロシア的自由人として生きたといえよう。戦争中たべものに困り、タルコフスキーの母が装飾品を売りに農家を訪ねていく場面が「鏡」にある。その農家の婦人を彼の妻が演じている。

LDのジャケットに採用されているおそろしげな母の顔(昨日掲載)は、思い直して品物を売るのをやめて帰ろうとすると、農婦に“鶏の首をはねてほしい”と強要される場面。映画では、母と妻を同じ女優が演じ、その母・妻を現に妻である女優の農婦が追い詰めるという・・・。

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by kugayama2005 | 2005-12-20 02:09 | ■映画の楽しみ | Trackback | Comments(0)

君の名前の意味を聞いたら “山のきつね” まき毛はいかんせん狐色 瞳は草の緑をうつす好奇心。


by kugayama2005