2019年 12月 31日
2019日記【354】「日本霊異記」での防人説話 4
日本霊異記の説話(中巻第三話)、概略の言い訳
1 火麻呂の母は日下部真刀自(くさかべの まとじ)と言う。刀自は一般的に主婦と訳される。しかし、古代の主婦は独立した財産権もあり、家業を経営する当事者であることも珍しくない。したがって、「母は日下部家の女主人」とした。
2「火麻呂の母は火麻呂に付き添い、筑紫の地でなにくれと息子の世話をやいた」。軍防令では、妻妾を伴っての赴任は禁じている。
◾️養老律令第17(軍防令)27
「征行する者は、婦女を伴ってはならない」
※婦女とは、妻妾、婢(女性の私奴隷)を指すらしいので、母は入っていないが、常識的には母親付きで軍隊に入る男はいまい。しかし、防人については、次の条項がある。
◾️養老律令第17(軍防令)55
「防人が任地に向かう際、家人奴婢(私奴隷)や牛馬を連れて行く希望があればそれを許せ」とあるので、防人は上記「征行」とは違う扱いだ。奴婢の婢は女性の奴隷だが、母親同伴がどうなのかはわからない。
3「母が死ねば、その喪に服すということで故郷に帰れる」、というのは火麻呂が軍防令を誤認していたのだろうか?
◾️養老律令第17(軍防令)28
「征行するすべての士卒は、もし父母が亡くなった場合でも、喪は正式に軍事行動が終わった時点で発する」
※作戦中に喪に入ることはできない。しかしこの条項は、「征行」(天皇の命で征討する行動)についてであって、防人にも適用されるかはわからない。おそらく現実的には、柔軟に対処したのではないか。
※火麻呂が母親殺し未遂事件を起こしたのは、防人になってすでに3年が経とうという時期だ。防人の任期は3年だから、無事なら帰国間近だ。火麻呂は任期の延長を恐れたのかも知れない。