2019日記【353】「日本霊異記」での防人説話 3

さて、日本霊異記の説話(中巻第三話)、概略:


吉志火麻呂(きしの ひまろ)という男が防人に指名された。男の家は武蔵国鴨の里にあり、母は日下部家の女主人だ。


里長の大伴某によって、火麻呂は防人に選任された。母は火麻呂に付き添い、筑紫の地でなにくれと息子の世話をやいた。火麻呂の妻は鴨の里で家を守った。


さて時移り、火麻呂は妻と別れて3年近く、妻恋しさに耐えることができず、とんでもない逆しまな心が芽生えた。「母が死ねば、その喪に服すということで故郷に帰れる。防人をやめて、妻とふたり睦まじく暮らすことができようぞ」、と。


火麻呂は言う。「母上、東の方の山中で、7日間法華経の説法があるそうです。さっそく聴きに行かれては!」


母は心を動かされ、湯あみをして身を清めると、火麻呂とともに山に入っていった。


すると火麻呂の眼が、牛のような畜生の目つきに変わって、母を睨み、「地面にひざまずけ!」と言うので母は、「鬼狂ったか」と問う、と、火麻呂は刀を抜いて母に切りかかった。


火麻呂の刀が母の首筋に達しようとすると、地が裂けて火麻呂はそこに落ち込む。母は落ちようとする息子に飛びついて、すんでのところで、その髪の毛をつかみ、「息子は鬼狂いしたのだ、真の心ではない、罪を許したまえ!」と祈るが、ついに髪が切れて息子は地に呑まれてしまった。


母はその髪の毛を持ち帰り、末長く供養したという。母の慈悲は深く、深いがゆえに悪逆の子にも哀しみの心を垂れたのだ。


【写真】コミンカ/CONTAX Carl Zeiss Planar 50mm f1.4Canon EOS 5DmarkII(撮影は20101月)
2019日記【353】「日本霊異記」での防人説話 3_e0022344_03103573.jpg

















by kugayama2005 | 2019-12-30 00:00 | 2019日記 | Trackback | Comments(0)

君の名前の意味を聞いたら “山のきつね” まき毛はいかんせん狐色 瞳は草の緑をうつす好奇心。


by kugayama2005