2019年 02月 21日 ( 1 )

安騎野の冬猟、柿本人麻呂の長歌につけられた短歌四つのうち、最後のもの。


◾️短歌(反歌)

日並皇子(ひなみしのみこ)の命(みこと)の馬並(な)めて御狩(みかり)立たしし時は来向ふ


これで終わっている。前夜、眠れぬままに先祖の霊を念じ、明け方に狩の支度がととのう。亡くなった草壁皇子の霊が騎乗する馬と、馬を並べ、軽皇子(後の文武天皇)が狩に発たれる時が来たのだ。


人麻呂は狩には参加せず(参加する資格がない?)、宿営地にとどまったのだろう。この狩は、軽皇子(後の文武天皇)が将来の天皇にふさわしいかどうか、見極めるためのものとして、持統天皇が企画したものだ。冬至の祭事であるとともに、狩は軍事訓練でもあり、不測の事態が起こらなければいいが、と人麻呂の心は陰る。


以下、安騎野の冬猟、柿本人麻呂について私訳を再掲。


◾️長歌

やすみしし 我ご大君 高照らす 日の皇子 神ながら 神さびせすと 太敷かす 宮(みやこ)を置きて 隠口(こもりく)の 泊瀬(はつせ)の山は 真木立つ 荒き山道を 石(いわ)が根 禁樹(さへき)おしなべ 坂鳥の 朝越えまして 玉かぎる 夕さり来れば み雪降る 阿騎の大野に 旗すすき 小竹(しの)をおしなべ 草枕 旅宿りせす 古(いにしへ)思ひて


【私訳】長歌

国ぐにを平定するわが大君は、空高くかがやく太陽の御子、まさに神であり、神々の系譜に並ばれ、これまでになかった壮麗な藤原宮をつくられた。


その藤原宮を後にして、山々の重なる間の泊瀬にさしかかると、杉の大木がそそりたっている。荒々しい山道を、巨岩がふさぎ、樹木がさえぎり、それらを押しやって進む。


朝には峠を鳥が越えていった、何かの予兆だろう。薄暮の夕には、雪が降りかかる、それも何かの暗示だろうか。


阿騎の大野に、すすきや笹を押し倒して、草枕とする。そのように旅泊まりされた、いにしえの大君を思いつつ、われわれも夜を迎えるのだ。


◾️短歌(反歌)

東(ひむがし)の野に炎(かぎろひ)の立つ見えてかへりみすれば月傾(かたぶ)きぬ


【私訳】短歌(反歌)

未明の東の野に、登りくる日の兆しが見えている。これは軽皇子(後の文武天皇)の近未来を暗示している印だが、それが如何なものなのか、わかる力がいまの私にはない。返り見ると、薄い氷盤のような月が、傾いて西の漆黒に堕ちようとしている。これは、不幸な死を甘受した草壁皇子の姿だが、母の慈愛によりふたたび新たなより賢い生を受けるだろう。


※「安騎野」「阿騎野」の表記違いは白川静先生の真似。


【写真】富山地方鉄道(立山線)立山駅/SONY DSC-RX0

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by kugayama2005 | 2019-02-21 02:11 | 2019日記 | Trackback | Comments(0)

君の名前の意味を聞いたら “山のきつね” まき毛はいかんせん狐色 瞳は草の緑をうつす好奇心。


by kugayama2005